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賃貸経営

「民法改正を考える」その3

1 はじめに

前回に引続き、今回も民法改正に関する事項を取り上げたいと思います。今回取り上げるのは、「賃貸人たる地位の移転」、「賃借人の原状回復義務」に関する改正です。これら改正内容は主に従来定着していた判例法理や通説を明文化したもので、前回までに取り上げた改正事項と比べるとその影響度は下がるといえますが、改正事項の主要部分となりますので、同様に確認いただければと思います。

 

2 賃貸人たる地位の移転

⑴ 不動産の譲渡に伴う当然移転

現行法では、不動産の賃貸人たる地位の移転について明文の規定はありませんでしたが、改正法では明文規定が置かれることになりました。具体的には、借地借家法等に基づき賃貸借の対抗要件を備えた賃借人のいる賃貸不動産が譲渡された場合、その賃貸人たる地位は(敷金返還義務等も含め)不動産の譲受人に移転するものとされました。また、この賃貸人たる地位の移転は、不動産の所有権移転登記をしなければ賃借人に対抗できない旨も規定されました。

このように改正法では、賃貸不動産の所有権の移転に伴う賃貸人たる地位の当然移転が明文規定されましたが、不動産の譲渡人と譲受人が「賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨」と「その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨」の合意をした場合には、賃貸人たる地位は譲受人に移転しないものとして、賃貸人たる地位を留保できる旨の規定も置かれています。そのため賃貸人としては、賃貸人たる地位を留保した上で不動産所有権を譲渡するという選択も可能となります。

 

⑵ 合意による移転

改正法では、不動産譲渡に伴う賃貸人たる地位の当然移転の他、不動産の賃貸人が、不動産譲渡に際して賃借人の承諾を要することなく、不動産の譲受人との合意により賃貸人たる地位を移転させることができる旨の規定も置かれました。この規定は、借地借家法等に基づく賃貸借の対抗要件を備えていない賃借人がいる場合でも、不動産の売主(賃貸人)と買主の合意により賃貸人たる地位を移転できることを明文化したものです。具体的には、駐車場等借地借家法の適用のない不動産賃貸の場合の活用が想定されます。

なお、不動産の譲渡を伴わず、賃貸人たる地位のみの移転は可能かという問題もありますが、この点については、改正法でも賃借人の承諾なくこれを認める旨の規定は設けられていません。そのため、一般的に「契約上の地位の移転」を定めた規定(改正法で新設)に従い、賃借人の承諾を要することになります。

 

3 賃借人の原状回復義務

現行法では、賃貸借契約終了時における賃借人の原状回復義務について明文の規定はなく、実務上は、国土交通省による「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が策定される等されていましたが、改正法では明文規定が置かれることになりました。具体的には、賃借人は通常の使用収益による損耗や経年変化を除いた賃借物の損傷(賃借人に帰責性のない損傷も除く)に限定して原状回復義務を負う旨が明文化され、その規定内容は、同ガイドラインの内容に沿ったものとなっています。

なお、改正法における当該規定は任意規定であるため、通常の使用収益による損耗等についても賃借人の負担とする旨の特約を締結することは可能です。ただし、賃借人が事業者でない個人の場合は、特約の内容によっては消費者契約法10条の制限する不当条項として特約が無効とされる可能性があるため、特約で定める賃借人の原状回復義務の程度等については注意が必要です。

(著者:弁護士 濱田)

 

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