1 はじめに

前回のおさらいですが、借地・借家契約では、賃借人に債務不履行(契約違反)があれば直ちに契約解除できるというわけではなく、賃貸人との信頼関係を破壊して契約の継続を困難にさせるような重大な不信行為が必要とされています(信頼関係破壊の理論)。

その判断は事案によって様々ですので、前回に引き続き、信頼関係破壊の有無が問題となった裁判例をご紹介させて頂きたいと思います。

 

 

2 裁判例

⑴ 借地上の建物の増改築

賃借人は、借地上に所有する2階建の家屋に家族と居住していましたが、2階部分を拡張して新たな居室を設け、トイレや外付け階段等を設置するなどして2階をアパート賃貸用に改造したため、賃貸人が増改築禁止特約違反による契約解除を主張した事案です。

裁判所は、改造後も住宅用普通建物であることには変わりなく、当該土地の通常の利用上相当であることから、信頼関係の破壊は認められないとして契約解除を否定しました。一般論としては、借地上の建物が無断で増改築された場合、通常の想定を超えて賃貸人に不利益を及ぼすような事情があれば、信頼関係破壊と判断される余地があります。たとえば、旧借地法(平成4年7月31日以前の契約に適用)では建物が朽廃すると借地権が消滅しますが、この朽廃時期を延ばすような増改築は賃貸人に不利益を及ぼすものと解されています。

 

⑵ 借地の用法違反

普通建物所有を目的とする借地契約において、賃借人が借地の空地部分をトラック置場として使用し、無免許で自動車運送事業を営んでいる上、トラック3台のうち2台が公道にはみ出していることなどから、賃貸人が契約解除を主張しました。

しかし、裁判所は、賃借人が処罰を受けたり社会的に非難されることがあっても、賃貸人が責任や損害を負うものではないとして契約解除を否定しました。この事案では、公道の歩行者や近隣住民が迷惑を被ったり、苦情を出しているような事情は見られませんでしたが、もしそのような事情があれば異なる判断になったかも知れません。

 

⑶ 借家の用法違反

事務所使用を目的とする借家契約が締結されましたが、賃借人が事務所からTシャツプリント店に変更したことなどから、賃貸人が用法違反等による解除を主張したケースです。

裁判所は、当該店舗につき、商品が陳列・販売されて不特定多数の一般人が頻繁に出入りするような様子はないため、事務所使用の範囲を超えているとは言い難く、また、仮に用法違反だとしても違反の程度は軽微であり、賃貸人に不利益を及ぼすことは考え難いとして、背信行為とは認められないとしました。このように、契約上の用法違反については具体的な使用状況や賃貸人への影響等が考慮されています。

 

⑷ 借家の近隣への迷惑行為

賃借人が大きなラジオ音を発生させていた事案ですが、条例の音量基準を超えていなかったことや、賃貸人の注意を無視して大音量を発生させ続けたという事情もないことなどから、信頼関係の破壊には至っていないと判断されました。賃借人の騒音は、基本的には賃借人と近隣住民(被害者)との問題ですが、騒音の程度や賃借人の対応状況等によっては、賃貸人との信頼関係を破壊するものとして契約解除できる場合もあると考えられます。

 

3 まとめ

前編・後編にわたって、比較的イメージしやすい裁判例をご紹介させて頂きましたが、信頼関係破壊の有無については、事案ごとに様々な事情を考慮して判断されています。

賃借人を不信に思うような出来事があっても契約解除できるとは限らず、裁判例に即して見通しを立てることが重要ですので、少しでも気になることがありましたらお気軽にお問合せください。

 

(著者:弁護士 戸門)