不動産の買い手は案外近くにいる
不動産を売りたい、貸したい。その不動産を買う人、借りる人は案外近くにいるものです。
また、隣の土地は借金してでも買え、といわれるように、隣の土地を購入できれば地続きである自身の土地の利用価値も高まるため、隣の土地が売りに出た場合は、まず購入を検討してみるものです。このようなことから土地を売る場合は、特別な事情がない限り、まずは隣接する土地所有者に意向を確認してみることが基本的な考えかたとなります。
このプロセスを経ずに隣地以外の第三者に土地を売却することも何ら問題はありませんが、後日確認をとってみたら、結局、隣の人が土地を買っていたということは意外とよくあるものです。

また、隣接地ではなくても、同じ街区、同じ町内も購入希望者がいる可能性は高くなります。親世代、子世代との同居はスペース的にも心身的にも難しいものの、何かあればすぐに駆け付けられるくらいの距離に土地を買って子供夫婦を住まわせたい。何かと頼りになる兄弟姉妹の近くに住みたい。などというというニーズは多いものです。
土地に限らずマンションも同じです。家族が増えてマンションが手狭になったので同じマンション内で広い部屋があったら住み替えたい。また、子供たちが独立し、夫婦だけでは広すぎるので、もう少しコンパクトな部屋に住み替えたい。また親家族、子供家族が同じマンション内の他の部屋に住んでくれたら安心だ。というニーズも多いものです。また、同じ地域の一戸建てに住んでいるが、歳とともに利便性がよく安全性も高い駅前のマンションに住み替えたいなど。不動産の取引の多くは身近な需給圏内で行われています。
不動産の権利についても同じことがいえます。共有持ち分は、他の共有者に購入してもらう、貸宅地は借地人に購入してもらう、借地は地主に買い戻してもらう。このように近い権利者に売却することが不動産の適正な価値を見出す一番の方法です。最近では「不動産の共有持ち分を購入します」という不動産会社や「底地(貸宅地)を購入します」という不動産会社の広告も増えてきましたが、共有持ち分や貸宅地を購入した不動産会社は、結局、最終的には他の共有者に共有持ち分を売却していますし、貸宅地は借地人に売却しています。
少し見方を変えて戸建てなどの借家の売却についてはどうでしょうか。まずは入居者に退去してもらってから売却するのが適正価格で売却できると考えがちですが、物件を実際に使用している入居者に購入してもらえれば、退去の手間や費用もかからず、より適正な価格で売却することが可能ですので、入居者に対して、まずは退去の申し出ではなく、購入の意向を確認してみることも重要です。
このように、不動産の売却を検討する場合には、まずは身近なところから意向を確認してみることがひとつのセオリーといえるでしょう。
とはいいながらも、灯台もと暗し、と言われるように、身近であればあるほど、なかなか気が付かないことが多いのも事実です。
まずは家族や社員など、身近なところからもう少し気を付けなければいけませんね。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)