第7回 借地非訟の概要
1 はじめに
借地借家法では、借地に関する紛争の解決手段として、借地非訟という手続が用意されています。今回は、借地非訟の概要についてご説明したいと思います。
2 手続の概要
借地非訟の手続は、借地の所在地を管轄する地方裁判所で行われます。借地非訟で取り扱うことができる主な事件としては、
①借地条件の変更、②建物の増改築の許可、③借地権の譲渡・転貸の許可などがあります。
借地非訟は、本来当事者が合意して定めるべき事項を裁判所が代わって定める手続であり、その判断にあたっては裁判所に広範な裁量が認められています。
また、裁判所が判断するためには、原則として鑑定委員会(弁護士、不動産鑑定士、一級建築士等で構成)の意見を聴くことが必要とされています。
そして、審理の結果、裁判所が申立て(借地条件の変更、増改築、借地権譲渡等)を認める場合は、付随処分として、借地人が支払うべき財産的給付(いわゆる承諾料)の金額が定められます。通常は、申立てから裁判所の決定が出るまで概ね半年~1年程度かかりますが、当事者間の話合いにより和解で解決することも少なくありません。
3 事件の類型
⑴ ①借地条件の変更申立事件
借地契約において、建物の種類、構造、用途等を制限する旨の借地条件が定められている場合に、借地人は借地条件の変更(たとえば非堅固建物の所有目的を堅固建物に変更するなど)を求めることができます。
裁判所は、近隣土地の利用状況の変化や、借地権の残存期間、土地の状況、従前の経過など様々な事情を考慮して相当と判断した場合は、承諾料の支払を条件に借地条件の変更を認めることになります。承諾料の金額は、更地価格の10%程度を一応の基準とし、諸事情を考慮して決定されています。
⑵ ②建物の増改築の許可申立事件
借地契約において、借地上の建物の増改築禁止特約が定められている場合に、借地人は建物の増改築の許可を求めることができます。
裁判所は、土地の位置・面積、近隣の土地の状況、増改築の内容の諸事情を考慮し、土地の通常の利用上相当と判断した場合は、承諾料の支払を条件に増改築を許可することになります。承諾料の金額は、全面的改築の場合は更地価格の3%~5%、一部改築の場合は更地価格の1%~3%程度とされることが多いようです。
⑶ 借地権の譲渡・転貸の許可申立事件
借地権の譲渡・転貸をするためには賃貸人の承諾が必要ですが、借地人は裁判所に借地権の譲渡・転貸の許可を求めることができます。
裁判所は、譲受予定者の経済的・社会的信用性などを考慮し、借地権の譲渡・転貸をしても地主に不利にならないと判断した場合は、承諾料の支払を条件に賃借権譲渡・転貸を許可することになります。承諾料の金額は、概ね借地権価格の10%程度を基準とし、諸事情を考慮して決定されています。
また、借地人から借地権譲渡・転貸の申立てを受けた賃貸人は、対抗手段として、借地権を自ら優先的に買い取る(または転貸を受ける)権利(介入権)が認められています。
この介入権が適法に行使されると、裁判所は、借地人が支払う相当の対価を定めて借地権譲渡・転貸を命じることになります。
4 まとめ
借地人との話合いがまとまらない場合は、上記の借地非訟を利用して解決を図ることが可能です。
もっとも、時間・費用のコストや借地人との関係を考えると、できれば話合いによる早期解決が望ましいところです。その場合でも、借地非訟での結論をある程度予測することができれば、それに近い内容で話合いにより解決しやすくなるのではないかと思います。
(著者:弁護士 戸門)