売った後も住み続けられる(リースバック)
近年、自宅を売却しても住み慣れた自宅に住み続けられます。という不動産会社の宣伝を多く見かけるようになりました。
これは何も最近開発された売却手法ではなく大分前から活用されてきた手法で、売却して借り受けるという意味でセールアンドリースバック、またはリースバックとよばれています。
かつては企業の財務体質改善のために本社ビルを売却して、そのまま引き続き賃借人として利用するような場合に用いられるケースが主流でしたが、最近では老後の資金不足問題などを背景に住宅でも活用が増えてきているようです。
リースバックというと何やら難しく感じますが、要するに自宅の売却です。
その自宅の売却資金をもって近所の賃貸住宅に引っ越すか、もともとの自宅に家賃を支払って住みつづけるかということです。したがいまして、大事なポイントは、リースバックするかどうかはひとまず置いておき、好条件で売却できるかどうかです。
住み続けられるという言葉に魅せられて、単純に売却した場合に比べて相場より安く売却したとすれば、老後資金の確保という意味では本質を見失ってしまっていると言わざるを得ません。また、売却金額や売却後の賃料などの諸条件に納得しても賃貸契約の内容が継続性がある契約なのか、定期借家など一定期間で終了する契約なのかも重要なポイントです。
そもそもリースバックの事業者である不動産業者は福祉事業ではなく営利目的でこの事業に取り組んでおります。したがってリースバックで購入した物件は、いずれ第三者に売却して、その売却益を見込んでいます。定期借家契約により元の所有者である賃借人が出ていく時期が明確で転売の時期が見込めるものと、普通借家契約で賃借人が出ていく時期が不明で転売の時期が読めない物件とでは自ずと購入価格も賃料条件も変わってきます。もちろん短期で事業利益が見込める方、すなわち比較的短期で明け渡してもらえる契約形態の方が、利用者にとって好条件を引き出せることにはなりますが、居住の安定が見込めなければ、そもそもリースバックにて自宅を売却する必要もありません。
また、資金調達の観点から考えると、売却して纏まった資金が入ってきたとしても、その資金を取り崩しながら毎月の賃料を支払わなければなりません。
同じ資金調達でも、例えば自宅を担保にした不動産担保ローンの場合は毎月の借入金の返済が生じますが、賃料の負担はありません。また自宅を手放すこともありませんので、毎月の返済額が、想定される賃料並みか、それ以下であれば何も不安定なリースバックを選択する必要もありません。
最近では金利のみの支払いや死亡後に自宅を売却することを前提とするリバースモーゲージという融資方法もありますので、それらも含めたうえで、資金調達による老後の資金と居住の安定をどうするか検討する必要があります。
本コラムをご覧になっている地主家主の皆様には特に縁のない老後資金調達の話題かもしれませんが、事業者の視点を持つことによってリースバックを上手に活用することも可能です。
例えば、高齢の借地人で相続人が身近にいないケースなどは借地権付き建物である自宅を買戻し、亡くなるまで建物を賃借してもらうことによって、その後は自己の所有地として活用することが見込めます。
リースバックやリバースモーゲージなどの普及は超高齢化社会がもたらしたビジネスモデルです。老後も健康で安心して程よく長生きしたいものですね。
(著者:不動産コンサルタント 伊藤)