第2回「相続登記義務化~その2」
今回は、前回に引き続き、「相続登記の義務化」に伴う登記手続の変更点についてお話しします。さて、相続登記が義務化されたと言っても、様々な事情により、期限までに登記できないことがやむを得ないような事態も考えられます。
例えば、共同相続人が多数存在し、不動産の帰属についての分割協議がまとまらないとか、共同相続人の中に。行方不明者がいるとか、認知症が進行して分割協議の意味を理解できないような人がいる場合などがあげられます。このような場合も、形式的に義務化に違反したとして「過料」を課すことが不合理で、何らかの救済措置が必要であることは社会通念上明らかと言えるでしょう。

【相続人申告登記】
そこで、このような場合に、申請義務を履行することができるようにする仕組みとして「相続人申告登記」が新たに設けられました。
これは、自らが登記記録上の所有者の相続人であることを登記官(不動産を管轄する法務局)に申し出ることで、相続登記の義務を履行することができる制度です。これにより、申出をした相続人の住所・氏名等が職権で登記に付記されます。
この申出は、相続人が複数存在する場合であっても、特定の相続人が単独あるいは他の相続人の分も含めた代理申出で行うことができます。また、申出手続において、押印・電子署名は不要で、必要書類も少なく(申出人が相続人であることを示す戸籍等で足り、法定相続人の範囲及び法定相続分の確定が不要。)、登録免許税も不要です。
但し、義務を履行したとされるのは、共同相続人のうち、申出をした相続人のみであり、例えば、共同相続人5名中、この申出をしたものが3名である場合、その3名は相続登記の義務を履行したことになりますが、残りの2名については履行したことになりません。
また、不動産についての権利関係を公示するものではないので、相続した不動産を売却したり、金融機関から融資を受けて担保設定するような場合は、別途相続登記の申請をする必要があります。更に、申告登記のみでは遺産分割に基づく相続登記の申請義務(遺産分割成立日から3年以内に、その内容を踏まえた相続登記を申請する。)を履行することはできません。
【法定相続分での相続登記の申請】
もう一つの方法として、従来から認められていた、「法定相続分での相続登記の申請」があります。
これは、前回ご説明したところの「とりあえず」法定相続分の登記を申請する方法です。例えば、夫婦・子供1名の家族で、夫が亡くなった場合、法定相続分は、妻が2分の1、子が各4分の1となりますが、(遺産分割協議を経ることなく)その持分で、「とりあえず」亡夫名義の不動産に関し、相続登記を申請する方法です。
しかし、この方法をとった場合も、前回ご説明したとおり、最終的には遺産分割協議を経て、それに従って相続登記を申請しなければ、申請義務を完全に履行したことにはなりません。
以下は私見ですが、法定相続分での相続登記の場合、保存行為として相続人の1人からの申請が可能ではあるとはいえ、場合によっては、収集する戸籍等が多数にわたるなど、資料収集の負担が大きい場合もあり、また、登録免許税も固定資産税の評価額の0.4%かかることから、前述した「相続人申告登記」によった方が良いとは思いますが、最終的にはケースバイケースでのご判断となることと思われます。
(著者:司法書士 大谷)