認知症と相続対策_後悔しないために今できること
◎さまざまな場面に潜む「後悔先に立たず」
高齢化が進む現代社会において、「認知症」と「相続対策」は切っても切り離せない関係にあります。
近年では、親が認知症を発症したことで相続対策が進められなくなり、困惑する家族も少なくありません。毎年、相談者の約2割の方が対策遅れによる後悔を経験されています。これは私を含め、相続専門家が共通して指摘している課題です。人生100年時代と言われるいま、健康なうちに準備を進めておくことが何より大切です。
◎そもそも認知症とは?
認知症とは、脳の機能が低下することで、記憶力や判断力、思考力などが低下し、日常生活に支障をきたす症状をいいます。加齢による「もの忘れ」とは異なり、体験したことそのものを完全に忘れてしまったり、道に迷う、時間や場所の見当がつかなくなるなど、日常生活のさまざまな場面で困難が生じる点が特徴です。認知症の診断および判断は、主に医師が行います。
◎認知症になっても相続対策は可能?
相続対策を進めるには、原則として「本人の判断能力」が必要です。
例えば遺言書の作成や贈与など、いずれも本人がその内容を理解し、自らの意思で実行する必要があります。しかし、認知症と診断され、判断能力が不十分とみなされた場合には、法律上、これらの手続きが無効となる恐れがあります。その結果、家族が本人の財産を管理できなくなったり、相続税対策が間に合わなくなり、多額の相続税が発生するケースも少なくありません。
また、介護施設の入居や介護に伴う費用を必要とする際、家族が本人の預貯金を引き出せないなどのトラブルも懸念されます。そのため、認知症を発症してからでは、対策の実行に困難が伴います。
◎要注意!平均寿命とは異なる健康寿命
日本は世界でも有数の長寿国です。しかし、長生きすることが必ずしも幸せに結びつくとは限りません。近年注目されているのが、「健康寿命」と「平均寿命」の差、つまり自立して生活できない“不健康な時間”の長さです。以下の表をご覧ください。
※厚生労働省「令和4年簡易生命表」「健康日本21(第三次)」を参考に作成
男女ともにおよそ10年の自立困難な期間を過ごす可能性があります。
この期間に認知症を発症すると、①賃料などの収入は「ただ」貯まる一方で相続税は増えるため、財産管理が必要となるが実行は困難 ②終わりの見えない介護によって家族が疲弊し、遺産分割の際にトラブルの遠因となる など悪循環に陥る危険性があります。そのため、早めの対策が重要です。
◎認知症でもできる相続対策は?
上述のとおり、基本的に対策の実行は行えませんが、財産管理の分野については成年後見制度があり、その中でも任意後見は、事前に信頼できる人を選任し、生活や財産管理の代行を契約することができます。また、法定後見であれば認知症の発症後でも講じることが可能です。ただし、これらはあくまで本人の財産管理や身の安全を確保する身上監護が目的であり、本来の相続税対策としては不向き(不可)です。認知症になる直前であれば、「財産をすべて妻に相続させる」など簡易な遺言書の作成や家族信託などの可能性も残されます。ただし、対策を講じるなら「認知症前」に。これが鉄則です。
(著者:税理士 高原)


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