建物維持管理の重要性について
先頃、東京都下の中核市において、居住用賃貸アパートの共用廊下の一部が落下し、通行中の居住者が亡くなるという大変痛ましい事故が発生しました。
このアパートは築後10年未満という事から施工会社の問題がまずは取り上げられるという事でしょうが、似たような事故は昨年も北の地域で起きています。アパート2階の外廊下崩落により、居住者数名がケガを負うという事故です。この建物は築25年という事で、滅失率の高まる30年未満でしたが、外階段の鉄部の錆や塗装の劣化が目立っていたという記事からは、管理・メンテナンス次第で防ぐ事が出来た可能性も考えられます。
設備不具合により発生する賠償責任をカバーする為にも、所有者は建物火災保険に施設賠償責任保険を付加する事は必須ですが、もちろん金銭的な補償だけで済む問題でない事はいうまでもありません。
又、現在の多様化する居住ニーズに対して、所有者は自らの賃貸住宅を効率的・効果的に維持・管理していく意識がこれまで以上に求められる時代となりました。そうでなければ空室率の上昇や家賃水準の引下げを強いられるという負のスパイラルに陥ってしまうのです。そのためにも「日常的な点検や専門家による定期点検を実施する事で不具合箇所の早期発見に努め、小修繕の実施や点検結果を踏まえた長期修繕計画を立て、適切な時期に実施する」事が重要です。
【点検の実施】
◎日常点検・・共用部の清掃業務、共用灯管球交換ゴミ置場の確認、植栽の剪定等
オーナー自ら清掃又は管理会社・外部業者委託等、実施回数及び内容は建物規模にもよるが、敷地内を常時清潔な状態に保つ事は入居率確保の為に重要。
◎定期点検・・出来れば1年に1回程度、管理会社や建築士などの有資格者による点検を実施
建物・外構・設備・敷地内設備等の各項目の破損・汚損状況の目視・触診による確認。早期の不具合発見、計画修繕実施の基本となる。法定点検と併せて実施する場合も。
◎臨時点検・・台風や地震直後の点検
◎法定点検・・建築基準法、消防法、水道法等の法律に基づく点検
建築設備の点検(昇降機等)、消防用設備の点検、水質検査・貯水槽の清掃等。
【計画修繕の立案】
屋上防水・屋根・廊下・階段・バルコニー・外壁・鉄部・建具・集合ポスト・貯水槽・給水ポンプ・テレビ共聴設備・昇降機・外構・駐輪場・ゴミ置場・室内設備(給湯器・エアコン・
浴室・換気機器・トイレ・各水栓金具他)・給排水管等々
建物所有者による修繕箇所は上記のように多岐にわたり、建物の規模・構造によっても変わりますが、修繕箇所によって修繕周期や、かかる費用も違ってきます。国土交通省が3年前に実施した賃貸住宅家主を対象としたアンケートの結果では、計画的に修繕を実施している家主は2割程度だったという事です。
多額の修繕費を物件の運用益から確保できるのか不透明な中では積極的に取組みにくいというのが現状でしょうか。設備はいずれ必ず修繕又は交換の必要な時が来ます。場所によっては、先に書いたような大きな被害も起こりかねません。
又、その都度対応を行うよりも計画的な修繕の方が費用を抑えられたという実態もあります。例えば給湯器やエアコン等の設備は全室分を一斉交換する事によって、スケールメリットで1台当たりの費用を抑える事も可能になります。
どの箇所を最優先に修理していく必要があるのか、そして次は・・必要に応じた設備の性能向上の為の改良工事や、室内のリノベーションも含め、中長期的な計画と、日常的な細やかな目配りが賃貸経営を豊かなものとします。信頼のおける建築・管理会社と相談の機会を是非お持ち下さい。
(著者:片岡)