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賃貸経営

第2回 正当事由による契約終了(後編)

1 はじめに

前回は、賃貸人が借地・借家契約を終了させるための「正当事由」や立退料に関する一般論をご説明しましたが、具体的な事案でどのように判断されているのかをイメージして頂くため、いくつか裁判例の概要をご紹介させて頂きます。

 

 

2 借地契約の裁判例

(1)居住用建物の敷地として使用されていた借地(賃料月額1万7550円)につき、賃貸人は、三世代住宅を建築するために土地使用の必要性があることなどを主張しましたが、切迫した高度の必要性があるとまでは認められませんでした。もっとも、賃借人も当該建物を相当程度留守にしていたことなどから、土地使用の必要性はさほど高くないと判断されました。また、当該土地は50年近く賃貸されており契約目的を一応達成していること、賃借人が借地の一部転貸に関して取り決めた金銭を支払わなかったことなどに鑑み、立退料としては700万円が相当と判断されました。借地権価格は1300万円程度でしたが、諸事情を総合考慮して立退料が算定されています。

(2)居住用建物の敷地として使用されていた借地(賃料月額4万8716円)につき、賃貸人は、将来の相続税の原資を確保するための資産活用として、当該土地上に賃貸住宅を建築する計画を主張しましたが、このような相続税対策をもって土地使用の必要性が高いとは言えないと判断されました。

また、借地上の建物は築66年以上で相当老朽化しているものの、高齢(76歳)の賃借人が55年間居住していること、賃貸人が提示した立退料3000万円では賃借人が同等の建物を取得して同じ環境での生活を確保できるとは言えないことから、立退料3000万円でも正当事由は補完されないとし、結論として借地契約の終了(更新拒絶)が認められませんでした。

 

3 借家契約の裁判例

(1)店舗兼居宅として使用されていた借家(賃料月額26万1360円)につき、賃貸人は建物の老朽化や建替えによる土地の有効活用等を主張しましたが、その一方で、場合によっては立退きにより賃借人の店舗営業が廃止に追い込まれて大きな不利益が生じることが指摘されました。当該建物の借家権価格は2675万円程度でしたが、このような賃借人の営業上の損失、代替店舗確保の費用や移転費用が考慮され、立退料として4000万円の提供を要すると判断されました。

(2)1階が焼き鳥店として使用されている借家(賃料月額24万円)につき、賃借人が移転先の店舗建物を見つけることは不可能とは言えない一方で、賃貸人は高齢(87歳)で要介護状態であり、従前居住していた当該建物の2階は介護を行う家族が生活するには手狭であること、階段の上り下りが困難な構造になっていることなどから、1階を居住用に改装して賃貸人が自己使用する必要性が高いと判断されました。もっとも、立退きによって賃借人に生じる不利益を補うため、店舗の引越料等の移転実費、一定期間の転居後の賃料と原賃料との差額、一定期間の所得補償が必要であるとして、180万円の立退料により正当事由が認められると判断されました。

 

4 まとめ

正当事由による契約終了については、土地・建物の使用の必要性を中心として、様々な事情を考慮して判断されており、立退料の支払によって正当事由が認められる場合でもその金額は事案によって大きく異なります。もっとも、過去の裁判例を参考にしてある程度の方向性を見出すことは可能と思われますので、立退きをご検討中の方はお気軽にご相談頂ければと思います。

 

(著者:弁護士 戸門)

 

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