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賃貸経営

第9回 賃借人の原状回復義務(前編)

1 はじめに

賃貸借契約が終了した場合、賃借人は、賃借物件を元の状態(原状)に回復して賃貸人に返還する義務を負います。もっとも、具体的にどこまで回復を要するのか不明確な場合もあり、比較的トラブルになりやすいところですので、今回は、原状回復義務の範囲や実務上の対応についてご説明させて頂きます。

 

 

2 原状回復義務の範囲

賃借人が原状回復義務を負うといっても、契約当初と全く同じ状態に戻さなければならないわけではありません。基本的には、賃借物件に生じた通常損耗(通常どおり使用していたことにより生じた損耗)や経年変化については、賃借人は原状回復義務を負わないものとされています。通常損耗・経年変化が生じることは賃貸借契約上当然に予定されており、これらによる減価分の回収は賃料に含まれると解されているためです。したがって、賃借人が原状回復義務を負うのは、通常損耗・経年変化以外の損傷、つまり賃借人の故意や不注意により生じた損傷ということになります。

もっとも、実際の場面では、通常損耗・経年変化に当たるか否かが不明確であることから、原状回復義務の範囲を巡って紛争になることも少なくありません。具体的には、賃貸人が賃借人に原状回復費用を請求する場合や、賃借人が賃貸人に敷金・保証金の返還を請求する場合(敷金・保証金から差し引くべき原状回復費用の金額が争われる場合)などに紛争が顕在化します。

このような紛争を防止するため、賃貸住宅の原状回復に関する指針として、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などが公表されています

このガイドラインでは、賃貸住宅に生じた損耗や毀損について、床、壁・天井、建具、設備などの部位ごとに、通常の使用で生じるもの(通常損耗・経年変化に当たるもの)とそうでないものが具体的に分類されているため、原状回復義務の範囲を示すものとして一般的に使用されています。また、古い物件について当初から無数の傷が付いているような場合は、賃借人が不注意で傷をつけたからといってその修繕費用の全てを負担させるのは不合理であるため、建物や設備の経過年数が多いほど賃借人の負担割合を減少させるという考え方が採用されています。

 

3 実務上の対応

紛争を未然に防ぐための対応としては、上記のガイドライン等を参考にして、賃貸借契約書に修繕分担表(各部位についてどちらが原状回復するかを記載した一覧表)を付けておくことが考えられます。また、契約終了時に確認した損耗・毀損が入居当初からあったものか、それとも契約中に賃借人が付けたものかを明確にするため、入居時に各部位を写真撮影し、損耗の有無・内容を記載したリストを作成しておくことも紛争防止策として考えられます。

さらに、賃貸人の負担を軽減するため、通常損耗についても賃借人が補修する旨の特約(通常損耗補修特約)を定めることも可能です。但し、賃借人に特別の負担を課すことになるので、賃貸借契約書にその内容を具体的に明記するなど、双方において明確に合意されていることが必要とされています。

 

4 終わりに

今回は、賃借人の原状回復義務について基本的な考え方をご説明させて頂きましたが、上記のガイドライン等を用いても話合いによる解決ができなければ、最終的に訴訟で決着が付くことになります。その場合にどのような判断がなされているのかを知っておくことも重要ですので、次回は、原状回復義務に関する裁判例を幾つかご紹介したいと思います。

 

(著者:弁護士 戸門)

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