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賃貸経営

第12回 賃貸借契約における信頼関係の破壊(後編)

1 はじめに

前回のおさらいですが、賃貸人が賃貸借契約を解除するためには、単に賃借人の債務不履行(契約違反)があるというだけではなく、賃貸人との信頼関係を破壊して契約の継続を困難にさせるほどの重大な背信行為が必要とされています(信頼関係破壊の法理)。今回は、無断増改築、用法違反、迷惑行為の各類型について、信頼関係破壊に関する若干の裁判例をご紹介したいと思います。

 

 

2 無断増改築

借地人が、増改築禁止特約に反し、借地上の建物の土台、柱、躯体部分等に重大な変更を加える改築工事を無断で行った事案について、賃貸人が工事を実施しないよう再三警告していたこと、賃借人が急いで工事を強行すべき理由がないこと、賃借人が立退料名目で法外な金銭を要求していたことなどに鑑み、信頼関係破壊による契約解除を認めました。

一方、別の事案では、賃借人が借地上の建物を無断で増築したものの、既に増築から10年以上が経過しており、その間当事者間に何らの紛争もなかったこと、比較的簡易な増築であり、建物の耐用年数が延長されたとの事情がないことなどに鑑み、信頼関係の破壊を認めなかったケースもあります。このように、無断増改築の事例では、増改築の内容や従前の経過等が判断に影響していることが分かります。

 

3 用法違反

賃貸建物の使用目的をマリンスポーツ店の事務所・店舗と定めたにもかかわらず、実際には深夜営業のクラブとして使用されていた事案については、賃借人が建物の構造に悪影響を及ぼしかねない工事をしたこと、オーナー側の反対の意向に耳を貸さなかったこと、法が求める許可も得ずにクラブを開店したことなどに鑑み、信頼関係破壊による解除が認められました。

一方、居住目的で建物を賃貸したにもかかわらず、賃借人が同建物で会社業務も行っていた事案では、実際に住居としても使用されていること、会社の実質的な営業活動は建物外で行っていること、近隣居住者から苦情が述べられた事実もないことなどに鑑み、契約解除は認められませんでした。これらの場合も、用法違反の内容や従前の経過等が考慮されています。

 

4 迷惑行為

アパートの賃借人が、生活音がうるさいなどと苦情を述べて隣室との壁を何度となく叩き、ドアを蹴って穴を開けるなどの行為を繰り返した結果、隣室の居住者らが耐えられずに退去した事案では、賃貸人が契約解除を通知した後も賃借人が同様の行為を繰り返していたことなどを考慮し、信頼関係破壊による解除が認められました。

一方、賃借人が大きなラジオ音を発生させていた事案では、条例の音量基準を超えていなかったことや、賃貸人が注意した後に大音量を発生させ続けたとの事情もないことなどに鑑み、信頼関係の破壊は認められませんでした。近隣への迷惑行為は、基本的には賃借人と近隣住民(被害者)との問題ですが、迷惑行為の内容や賃借人の対応等によっては、賃貸人との信頼関係破壊が認められる場合があります。

 

5 終わりに

賃貸人としては、賃借人の契約違反等があると信頼を失ってしまうと思いますが、どのような事情があれば契約解除できるのかについては、過去の裁判例が参考になりますのでご確認頂ければと思います。

 

(著者:弁護士 戸門)

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