司法書士の事件簿~第2回「過料にご注意」
【案件その2~役員(取締役、監査役など)の任期満了に伴う役員変更(重任)登記の申請を失念してしまった】
(総論)今回は、商業・法人登記についての話題をお話ししようと思います。
皆さんの中には、株式会社の役員(取締役、監査役など)に就任されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような方々のなかには、役員としての任期が存在していることは知っていても、その任期満了時の株主総会において、再任(重任)の決議がなされていない場合や、決議がなされ、それについての就任承諾をしたことは知っていても、その決議に基づく登記申請が実際になされているかということまで確認していないこともあろうかと思います。
それでは、上記のような場合に、登記申請権者である会社の代表者(代表取締役)が登記申請を失念してしまった場合には、会社はどのように対処しなければならないのでしょうか?
なお、このような役員変更の登記申請については、登記の事由が発生した日(役員等の選任決議及び就任承諾)から2週間以内にしなければなりません(会社法第915条第1項)。
(登記申請と登記懈怠に基づく過料の制裁)このような場合、会社としては、当該申請期間を経過してしまったとしても、登記の申請はしなければなりません。しかし、当該申請期間内の登記申請を怠った代表取締役は、裁判所から100万円以内の過料に処される可能性があります(会社法第976条)。
過料の金額について、上記の「100万円」という金額を目にするとびっくりされる方もいらっしゃるかと思いますが、あくまでも、上限の金額です。そして、実際の運用基準などについては、公にはされていないところ、あくまでも推測の域にとどまりますが、おおよそ、「1年程度の懈怠で5万円前後、10年以上懈怠すれば10万円程度」といったところでしょうか。
また、誤解が多い点としては、過料に処されるのは法人である会社ではなく「代表取締役」個人であるという点です。
これが意味するところは、過料については、「会社の経費で落とせない」という点です。もっとも、過料については、刑事罰ではないので、前科がつくことはありません。
(役員の任期との関係)役員の任期については、会社法上、通常は2年(監査役は4年)ですが、非公開会社については、最長10年とすることが可能です、
この点、会社法施行(平成18年5月1日)後に設立された小規模な会社(例えば、非公開会社)については、定款で役員の任期を10年と定めている会社も多いと思料されます。
このような会社の場合、任期満了に伴う再任(重任)の決議を経て、登記申請している会社ももちろんありますが、場合によっては、上記決議さえも失念している会社も散見されるのが事実です。
判断が難しい部分ではありますが、任期が長ければそれだけ任期満了に伴う再任(重任)登記の申請回数が少なくり、それだけ登記申請の際の登録免許税(資本金1億円以下であれば1万円)の負担が少なくなるメリットがある一方、きちんと任期管理をしていないと、必要な選任決議を失念し、場合によっては過料に処せられる危険性もあります。
そうならないように我々司法書士に役員の変更登記申請と併せて、役員の任期管理もお任せいただくというのも、このような危険を避ける一つの方法と思われますので、皆様におかれましてもご検討いただければ幸甚です。
(著者:司法書士 大谷)